霊岸島は、住居表示では東京都中央区新川となります。
霊岸島の特徴は、名前の通り、川に囲まれた島になっている点です。
東に隅田川、北に日本橋川、西と南に亀島川によって囲まれています。
また、住居表示にもありますように、かつて霊岸島の中を新川が横断していました。
さらに、テーマにもありますように、霊岸島はかつて江戸湊・舟運・日本酒のまちでもあったんですよ。
「メタバース霊岸島」は、バーチャルな霊岸島を再現し、住民や地元企業、利用者参加型のまちづくり啓蒙活動を行います。
<目 次>
1.「メタバース霊岸島」の設立趣旨
2021年10月、Facebookが社名をMetaに変更して以来、大手企業が続々とメタバース市場に参入しています。
日本では、渋谷区公認の「バーチャル渋谷」がオープンしました。
日本初となる自治体公認の都市連動型メタバースであり、バーチャルイベントプラットフォームでもあります。
日本経済新聞
「メタバース霊岸島」は、
- 現状の街並み
- 川が街の表舞台となる姿
- 和船が行きかう川
- 江戸時代の街並みの一部
を再現し、川中心の街づくりを進めるために制作したバーチャル空間です。
「メタバース霊岸島」は、街並みを再現するにとどまらず、アバターを用いて
- 街並み、水辺遊歩道をウォーキング
- 猪牙舟(ちょきぶね)に乗り、隅田川・日本橋川・亀島川を回遊
- 水辺コンサート・展示会・講演会
- 出店での買い物:浮世絵・水辺絵画など(バーチャル・アイテム)
を楽しむことができ、商業活動も営むことができる予定です!
なお、メタバースによる不動産売買については、下記の記事をご覧ください。
2.川を表舞台にしたまちづくり
上記においても解説しましたが、霊岸島は、隅田川・日本橋川・亀島川に囲まれた島です。
2-1.河川関連施設
霊岸島周辺の河川関連施設としては、
- 隅田川 :橋;2箇所、係留所;1箇所
- 日本橋川:橋;2箇所
- 亀島川 :橋;5箇所、係留所;1箇所、水門;2箇所、緑道;1箇所
となります。
図3に河川関連施設を図示しましたので、ご覧ください。
なお、霊岸島の歴史や亀島川沿いの河川関連施設については、下記の記事をご覧ください。
2-2.亀島川周辺住民へのアンケート調査結果(※1)
日本大学理工学部海洋建築工学科親水工学研究室の長谷川演恒・畔柳昭雄による研究論文
「水門内水域の親水整備に向けた住民意向調査― 亀島川と天王洲運河周辺住民を対象として ―」
におきまして、亀島川周辺住民の水辺に対するアンケート調査を行いました。
(出所:日本大学理工学部海洋建築工学科親水工学研究室)※1
亀島川周辺住民の意識・評価を捉えると共に整備要望を明らかにし,親水空間整備の効果を捉えると共に、今後の亀島川の整備方策を検討しています。
いくつかのアンケート調査結果の中から、「河川環境に対する整備要望」のみを挙げますと、下図の通りです。
(出所:日本大学理工学部海洋建築工学科親水工学研究室)※1
DETAILED RESEARCH | 親水工学研究室@公式サイト (shinsuikougaku.wixsite.com)
「水門内水域の親水整備に向けた住民意向調査」
日本大学理工学部海洋建築工学科親水工学研究室
長谷川演恒、畔柳昭雄
調査結果より、
亀島川に対する整備要望は、
- 「水をきれいにする」:70.0%以上
- 「川沿い、水面の掃除をする」:50.0%以上
であり、水域環境において特に不満の項目である水質や清潔性に対し、改善を強く求めていることが窺がえます。
また、
- 「川沿いの公園を整備する」
- 「川沿いの遊歩道を整備する」
においても回答が多く、両水域で親水性や接水性に対して不満傾向が強いことがわかります。
さらに、
- 「水上レクリエーションが行えるようにする」
に対する要望が多く、静穏度の高い水域を利用することに対する期待が見られます。
と評価しています。
なお、アンケート調査結果の詳しい内容につきましては、下記の記事後半部分をご覧ください。
2-3.亀島川水辺遊歩道イメージパース
写真2.隅田川テラス(右岸)の向こうに中央大橋(右写真)
中央区内の隅田川テラス(神田川河口~日本橋川河口~亀島川河口)は、亀島川の河口部に位置する亀島川水門の近くまで、ほぼ完成しています。(写真1、2参照)
隅田川テラスでは、日常的にウォーキング・ジョギング・ピクニックなどを楽しむ老若男女がいます。
隅田川テラスを、亀島川の河口部から内陸部へと延長させることにより、連続した親水空間を形成することができます。
ここで、亀島川の象徴的なスポット2箇所において、水辺遊歩道のイメージパースを掲載します。
ちなみに、イメージパース作成は、日本大学理工学部海洋建築工学科親水工学研究室が作成したものです。
2-3-1.霊岸橋~新亀島橋区間
霊岸橋右岸橋詰の下流側にある駐輪場から新亀島橋方面(下流側)を見て撮影したものです。
図6.同じ方向から見た水辺遊歩道のイメージパース(右図)※1
2-3-2.亀島橋~高橋区間
亀島橋から高橋方面(下流側)を見て撮影したものです。
図7.同じ方向から見た水辺遊歩道のイメージパース(左図)※1
霊岸島の隅田川沿いについては、水辺遊歩道が完成しています。
日本橋川・亀島川沿いに水辺遊歩道が設置されれば、霊岸島を水辺沿いに歩いて一周することができます。
そこから「水都東京」が、再生されます。
2-4.道頓堀川沿いの「とんぼりリバーウォーク」
日本橋川・亀島川に水辺遊歩道を設置する際、一つのモデルになるのが、大阪市中央区にある道頓堀川沿いの「とんぼりリバーウォーク」です。
写真6.太左衛門橋をくぐる観光船(右写真)
道頓堀川を様々な観光船が行きかいます。
また、水辺遊歩道には多くの歩行者が散策します。
川側に店を開いている飲み屋や物販店もあり、賑わいを演出しています。
なお、「とんぼりリバーウォーク」の経緯については、下記の記事をご覧ください。
2-5.「メタバース霊岸島」での仕掛け
「メタバース霊岸島」では、島の周囲を水辺遊歩道で張り巡らし、水面に近い遊歩道をウォーキングするバーチャル体験を可能とします。
また、亀島川を挟んで左岸にコンサート舞台、右岸に客席を設けて
- 水辺ミュージシャンによる水辺コンサート
- 船上舞台での水辺コンサート
- 落語・講談・漫才・講演・薪能
などを開催します。
3.江戸湊・舟運のまちづくり
霊岸島は、江戸時代から江戸湊として栄え、舟運の盛んなまちでした。
3-1.江戸湊の賑わい
霊岸島は、江戸時代において隅田川に架かる永代橋の下流側から江戸湊として発展しました。
当時の日本における外交の窓口は長崎の出島でしたが、江戸における窓口は霊岸島でした。
図9.江戸名所図会:江戸湊の賑わい(右図)
図8は、江戸時代の霊岸島周辺を表した古地図の一つです。
図9は、江戸名所図会の「江戸湊の賑わい」を描いた様子です。
霊岸島の南端に、向井将監(むかいしょうげん)の屋敷があります。
図10は、「東都名所永代橋全図」です。
現在と違い、永代橋の南側に日本橋川があるのが、浮世絵でも表現されています。
また、永代橋と佃島の間の江戸湊の水域に、多くの菱垣廻船や千石船など停泊している様子が描かれています。
3-2.舟運のまち
霊岸島は、江戸湊のまちだけに多数の様々な船が行きかいました。
図12.広重による「江戸の賑わい」(右図)
図11は、渓斎英泉(けいさいえいせん)による永代橋の浮世絵です。
永代橋の下を、屋形船や猪牙舟(ちょきふね)が行きかっている様子が描かれています。
また、永代橋の下流側に、多くの菱垣廻船などが見て取れます。
図12は、広重による江戸湊の賑わいを描いた浮世絵です。
多数の菱垣廻船が停泊していると同時に、富士山も描かれています。
図13.菱垣廻船(右図)
左写真は、江東区亀戸に在住の篠田さんが所有する猪牙舟です。
現在でも、川に浮かべて漕ぐことができます。
筆者は、篠田さんと話をし、「いつでも使用してよいですよ」と、承諾をいただいております。
右図は、菱垣廻船です。
当時の江戸名所図会や江戸名勝図会、浮世絵などを見ますと、霊岸島は江戸湊のまちであると同時に舟運のまちであったことがわかります。
3-3.ヴェネツィアのゴンドラに対抗
世界的な「水の都」といえば、先ずイタリアのヴェネツィアが挙げられます。
写真9.小運河に架かる歩道橋の下をくぐるゴンドラ(右写真)
ヴェネツィアの街中には、大小の運河が張り巡らされています。
そこに大小様々な船が行きかっています。
特にヴェネツィアの象徴であるゴンドラの船頭が、カンツォーネを高らかに歌いながら、漕ぐ様は絵になります。
霊岸島周辺においても、ゴンドラに対抗して和船が行きかう様をバーチャルにとどまらず、リアルでも実現させるべく活動をしていきます。
3-4.「メタバース霊岸島」での仕掛け
「メタバース霊岸島」では、猪牙舟などの和船に乗り、隅田川・日本橋川・亀島川を周遊するバーチャル体験が可能になります。
芸者を乗せ、三味線を奏でながら舟唄を味わえるオプションサービスも検討しています。
また、和船造船所を設け、菱垣廻船・樽廻船・猪牙舟・屋形船を造船する様子を見学可能とする予定です。
4.酒を楽しめるまちづくり
(出所:「大江戸歴史散歩を楽しむ会」WEBサイト)※2
図15.現在の霊岸島の地図(右図)
図14は、江戸時代の霊岸島の古地図です。
図15は、現在の霊岸島の地図です。
霊岸島内部における大きな違いは、新川の有無と、永代橋の位置、中央大橋などの有無です。
4-1.霊岸島は日本酒のまち
江戸時代、霊岸島には新川という川があり、その沿川に多数の酒問屋が並んでいました。
図17.江戸名勝図会:新酒番船江戸新川入津図(右図)
図16は、江戸名所図会の「新川酒問屋」です。
新川沿いに多数の酒問屋が並んでいる様子がわかります。
図17は、江戸名勝図会の「新酒番船江戸新川入津図」です。
灘・伏見から菱垣廻船・樽廻船で運搬されてきた、その年最初の酒が新川の酒問屋に到着した様子を描いています。
当時の一番酒は、特に貴重なもの、縁起物として高価でした。
4-2.下り酒
灘・伏見から酒を樽廻船に積載して出航する様子を、司馬遼太郎は、著書「菜の花の沖」の主人公である高田屋嘉兵衛を通して詳しく描いています。
文春文庫(※3)
上記は、「下りもの」のいきさつを説明していますが、下りものの一つに酒があり、「下り酒」といいます。
とりわけいち早く対応したのが、伊丹の酒蔵です。
南都諸白を一段と進化させた「丹醸(伊丹諸白)」が、江戸近郊の地回り酒を凌ぎ、江戸市中でもてはやされます。
江戸の庶民を夢中にさせた「下り酒」──”船揺れ”がもたらした驚きの熟成効果 | 日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」 (sake-times.com)
SAKETIMES
江戸初期の頃は、4斗樽2本をそれぞれ馬の背の左右に積んで運びました。
上方から江戸まで運んだ酒が、「下り酒」の始まりで、その後、運搬手段は菱垣廻船・樽廻船へと移ります。
下り酒の大半が、霊岸島内の新川沿いにある酒屋問屋に降ろされました。
4-3.新川大神宮
新川大神宮は、江戸酒問屋の守護神として、長年に亘り酒類業界から見守られてきました。
写真11.境内の奉献酒(右写真)
写真10は、現在の新川大神宮です。
ビルの谷間にひっそりとたたずんでいます。
写真11は、新川大神宮内に積まれた奉献酒ですが、大半が灘と伏見の酒です。
4-4.「メタバース霊岸島」での仕掛け
「メタバース霊岸島」では、バーチャル空間に設けた居酒屋や屋台などで、お酒を楽しめる予定にしています。
お酒は、日本酒に限らず、洋酒なども楽しめますよ!
また、バーチャル空間でお酒を購入された利用者には、リアル店舗でもお酒を楽しめる工夫を凝らす予定です。
なお、霊岸島における江戸湊・舟運・日本酒の詳しい内容につきましては、下記の記事をご覧ください。
5.住民・地元企業の合意形成
「メタバース霊岸島」は、
- 川を表舞台にしたまちづくり(水辺遊歩道)
- 江戸湊・舟運のまちづくり(和船の復活)
- 酒を楽しめるまちづくり(日本酒・洋酒など)
などを実現させるために、住民・地元企業の合意形成に大きく貢献します。
先ずは、バーチャル空間にて啓蒙活動を行ないながら、整備された街並みに慣れ親しんでもらい、リアルへと繋ぐ役割を担います。
6.「メタバース霊岸島」の戦略
「メタバース霊岸島」の戦略と進め方について、概要を解説します。
6-1.「メタバース霊岸島」の戦略
6-1-1.バーチャル・イベント開催
「川を表舞台にしたまちづくり」とするために、下記の仕掛けをバーチャル空間にて行い、啓蒙活動を展開します。
- 和船(猪牙舟)での隅田川・日本橋川・亀島川の周遊
- 霊岸島周囲に造られた水辺遊歩道をウォーキングしながら1周
- 水辺コンサート、講演会、展示会、寄席の開催
6-1-2.バーチャル造船所開設
かつて、江戸湊があり、舟運の盛んな霊岸島として復活させる啓蒙活動を展開します。
そのため、菱垣廻船・猪牙舟などを製作するバーチャル造船所を開設し、造船の模様を見学可能とする予定です。
造船した猪牙舟は、観光目的で客を乗せ、江戸湊や隅田川・日本橋川・亀島川の周遊で利用されます。
6-1-3.バーチャル居酒屋開店
かつて、灘(神戸・西宮)・伏見(京都)からの下り酒が降ろされ、酒のまちとして賑わった新川を、酒のまちとして復活させる啓蒙活動を展開します。
「メタバース霊岸島」の利用者と酒を酌み交わしながら、コミュニケーションの場を設けます。
ここでもバーチャル酒類の販売を行いますが、その売上は「メタバース霊岸島」の運営資金に充当します。
また、バーチャル居酒屋とリアル居酒屋とを連携して、バーチャル居酒屋でお酒を飲んだ場合、リアル居酒屋でも実際にお酒を飲める予定です。
6-1-4.バーチャル・アイテム販売
バーチャル・アイテムの販売活動を行い、「メタバース霊岸島」の運営資金に充当します。
バーチャル・アイテムとしては、
- アバター
- 浮世絵
- 水辺の絵画
- キャラクターグッズ
- パンフレット
などを検討しています。
6-2.「メタバース霊岸島」の進め方
上記構想を実現化するために、下記の順番で進めていきます。
- 第1段階:霊岸島の現状街並みをバーチャルで再現
- 第2段階:水辺遊歩道の設置
- 第3段階:江戸時代の街並みを一部再現
- 第4段階:決済機能を追加
- 第5段階:バーチャルイベント開催
なお、霊岸島の現状街並みと江戸時代の街並み再現については、
- 関西大学環境都市工学部都市システム工学科
の技術支援を受けます。
街並みデータは、国土交通省が提供する「PLATEAU」データを活用します。
また、水辺遊歩道設置については、
- 日本大学理工学部海洋建築工学科親水工学研究室
- 大豊建設株式会社土木部(本社:東京都中央区新川1丁目)
の技術支援を受けます。
6-3.参考事例:「ハイパー江戸博」
7.まとめ
以上、
- 「メタバース霊岸島」の設立趣旨
- 川を表舞台にしたまちづくり
- 江戸湊・舟運のまちづくり
- 酒を楽しめるまちづくり
- 住民・地元企業の合意形成
- 「メタバース霊岸島」の戦略
について解説しました。
霊岸島には、江戸情緒を彷彿とさせるコンテンツが豊富にあります。
その一つ一つを活かしながら、水都江戸・東京としての情報発信基地としての役割があります。
しかし、現実問題としてリアルでの「まちづくり啓蒙活動」には限界があります。
「メタバース霊岸島」は、住民や地元企業、利用者参加型のバーチャル「まちづくり啓蒙活動」です。
バーチャル空間で楽しみ、語らい、飲みながらまちづくり活動を行う社会実験的な側面もあります。
まだ、制作の端緒に就いたばかりですが、様々な方々の知見を仰ぎながら「バーチャル霊岸島」を完成させます。
皆様のご支援・ご協力のほどをよろしくお願いいたします。
8.参考・引用Webサイト
※1 「水門内水域の親水整備に向けた住民意向調査」
日本大学理工学部海洋建築工学科親水工学研究室
長谷川演恒、畔柳昭雄
https://shinsuikougaku.wixsite.com/shinsuikougakulab/detailed-research
※2 「亀島川・新川」
大江戸歴史散歩を楽しむ会
※3 「菜の花の沖」
司馬遼太郎著 文春文庫
コメント